彼女になれない彼女
教室に入ると、いつも通り彩乃と弥恵が喋っていた。

「おはよう。」

私はいつも通り声をかける。
二人は顔を上げて「おはよー。」と返してくる。

どうしよう。
全然言う流れじゃない。

そこへ、同じクラスの野球部がニヤニヤしながら近づいてきた。
さっきまで平良の周りにいた男子たちだ。

「前山さん、おめでとう。」

男子たちはそう言って通り過ぎていった。
前山さんというのは私のこと。

突然の祝福に、彩乃と弥恵が疑問符を浮かべたような顔をする。

彩乃にも弥恵にも、私が平良のことを好きだとは打ち明けていない。

「なんかあったの?」

彩乃がニヤニヤしながら聞いてきた。

「うん、まあ。うん。」

ついモゴモゴしてしまう。
弥恵が私の目を見つめてくる。

「彼氏できた?」

彩乃がハッとした顔をする。

「そういうこと?告白されたとか?」

私は小さく頷く。
二人が小さな声でキャーと騒ぐ。

「だれだれだれだれ。」
「平良?平良でしょ?」
「平良?平良なの?」
「だって野球部じゃん。」

彩乃と弥恵がキラキラさせた目で見てくる。

「そうだよ。」
「えー!なんで!」

当てておいていちいち反応が大きい。
声も大きいから、教室中にダダ漏れだ。
ふと、平良に告白した子が誰なのかチラッと気になってしまった。
彼女の耳に入ったら相当落ち込むことになるだろう。

「『沙和、俺ずっとお前のこと・・・』」
「『平良、あたしもね・・・』」

二人が盛り上がってるところを訂正する。

「違うよ。そういうんじゃないよ。」
「え、告白されたんでしょ。」
「詳しく。」
「彼女になって、とは言われたけどそういうんじゃない。」
「いやいやいやいや、好きだからでしょ、それは。」

弥恵が強気で言う。

「好きとかそういうんじゃないと思う。」
「好きじゃないと、彼女になってとは言わないって。」

彩乃が言うと、弥恵が静かに言った。

「っていうか、私はずっと平良と沙和は好き合ってるんだと思ってたよ。」

私はギョッとする。

「いくら家が隣だからって好きじゃなきゃ毎日毎日一緒にご飯食べないでしょ。」

弥恵の言葉に彩乃は「たしかに。」と合わせる。

「でも平良はうちの定食が好きっぽいし。」
「沙和、それは口実。平良は間違いなく沙和のことが好きだね。」
「彼女になってって言うくらいだもんね。」
「いいなー、美男美女じゃん。」
「美男美女って・・・。」

平良はたしかに顔立ちもよく頭もいい。
野球部のピッチャーで男女問わず人気がある。
気付いたら、学校で目立つ存在になっていた。

私は真逆でパッとしない。
学校には可愛い女子はたくさんいる。

平良が私を好きになる理由が見つからなかった。


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