高嶺の花沢さんは恋の仕方がわからない
足が石にされたみたいで、私はその場から動くことができなかった。

それまで背中を向けていた西口くんが私の方に顔を見せた。

「俺の独り言です」

西口くんはそう言うと、カバンを手に持った。

「――ご、ごめんなさい!」

私は躰を2つに曲げて、西口くんに謝った。

「私、何も知らなくて…それどころか、噂を信じちゃって…」

「何も知らないのは仕方がない。

誰にも話してなかったし、蜜実さんが知らなかったのは悪くない」

「でも…私、西口――輝明さんの話を聞かなかった…。

それどころか、輝明さんを避けちゃったし…」

「それは胸が痛かった」

西口くんはフフッと笑ったので、私の胸がチクリと痛くなった。
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