見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
おおらかな気持ちで身を任せていると、風と音が止まった。鏡に映る彼の表情はいくらか柔らかくなっていて、ドライヤーを台に置きながら半信半疑な調子で言う。


「近づけた、か?」

「あ、私が感じるだけですけどね。なんとなく、心の距離が縮まったかなって」


ひとりよがりかもしれないが、正直な想いが自然に口からこぼれだす。


「周さんが私のことを考えたり、触れたりしてくれるのが嬉しくて。穏やかな気持ちになれるし、自信も湧いてくるんです」


少々恥ずかしいけれど、まだ完全に酔いが冷めていないからこそ伝えられた。鏡越しの彼に向かって、照れ隠しで微笑む。

周さんからは特に反応がない。やっぱりこんなふうに思うのは私だけか……。

少々寂しくなったとき、彼の表情に真剣さが帯びてくるのがわかった。鏡越しではなく、直接私を見下ろす彼がなんとなく気になる。


「周さ──?」


後ろを振り返る最中、目の前に彼の顔が近づく。次の瞬間──唇が、重なった。

温かく、柔らかな感触。甘い肌の香り。かすかな息遣い。意識が彼のすべてに支配されて、まつ毛すらも動かせなくなった。

ちょっと、待って。まさか、今キスされるなんて……!
< 105 / 275 >

この作品をシェア

pagetop