見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
苛立ちをやる気に変え、背筋を伸ばしてさっさと着つけを再開する。

下前と上前を重ね、それを押さえながら腰紐を結ぶ。おはしょりを整え、衿を合わせたら胸紐を結んで押さえる。

伊達締めをしたら次は帯だ。光沢のある淡い金色の帯を、心地のいい衣擦れの音をたてて太鼓結びにしていく。

その様子を、袴に着替え終わった橘さんは目を見張って、あとのふたりは呆気に取られた顔でぽかんと眺めていた。

最後に帯締めを結び、仮紐をはずして帯揚げを整えたら完成。

姿見に映した今の自分は、少なくとも畑仕事よりはここにいるほうが合っているだろう。ナチュラルメイクではあるが丁寧にしてきたし、髪もアップにしているし、着物姿に見劣りしないはず。

ニ十分ほどの早業で終わらせた私に、ほのかちゃんが興奮気味に小さく拍手をして寄ってくる。


「希沙さん、綺麗~! 着つけも手際よくてすごいです!」


熟女三人組のことも気にせず褒めてくれる彼女に、自然に笑いがこぼれた。そして軽く首を横に振り、「豚に真珠よ」と茶化してみせた。

初めてバツが悪そうにするおば様方に、内心してやったりと思う私も、なかなかいい性格をしているな。と自負しながら、ほのかちゃんと一緒に更衣室を出た。
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