見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
富井が言い終わる前に、俺の身体は勝手に動き、そばにあった日本刀に手を伸ばしていた。

ただのレプリカだと承知しているが、このうるさい口を黙らせてやりたい。

刀をすらりと鞘から抜き、ギョッとする富井を壁際まで追い詰め、刃をヒュッと首元に近づける。


「ふざけたことを抜かしてると、その首を刎ねるぞ」


氷点下の視線と声を突きつけると、富井は笑みを歪ませたおかしな顔をして、「お前がやるとシャレにならねーって!」と声を上げた。

それもそのはず、俺は昔、剣術も習っていた時期があるから。その気になれば、敵のひとりやふたり倒す自信はある。

以前、富井は俺と仲よくやりたいと思っているらしい、と希沙が話していたが、どう考えても俺を挑発しているだろう。やはり、よくわからない男だ。

今しがたの話もすべてが真実だとは思えないので、刃をぴたりと近づけたまま追及する。


「どこまでが本当で、どこから嘘だ」


やや上を向いた状態の富井を睨みつければ、彼は観念するような小さなため息交じりに吐露し始める。


「少ーし脚色したけど、希沙ちゃんのほうからここに来たのも、辛そうだったのも本当。あの子の着物についてる女紋のことで聞きに来たんだよ」

「女紋……」
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