見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
紅葉の紋のことだ。希沙はそれに関して詳しく知らなかったが、なぜ今になって調べ出したのだろうか。

疑問を抱くも、ひとまず本当のことを打ち明けたようなので刀を離し、富井を解放した。

刀を元の場所に戻すため踵を返すと、彼は肩の力を抜き、落ち着いた口調で言う。


「彼女は没落した華族の家系だったんだな。イチはあの女紋について知ってたのか?」

「……まあな」

「まさかそれで求婚したわけ? 結局は家柄で選んだのかよ」


呆れが混ざった調子の声に、俺は刀を鞘に戻しながら力強くきっぱりと返す。


「そんなのは関係ない。彼女を愛しているからだ」


女紋が希沙に興味を抱くひとつのきっかけにはなったが、それだけだ。家柄で選んだのなら、とっくに両親に彼女が旧華族であることを明かしているし、庶民の子を娶りたいなどと説得もしない。

富井は壁に背を預けたまま腕を組み、真剣な表情で口を開く。


「だったらあんな顔させるなよ。……ま、今のお前も相当ヤバい顔してるけどな。日本刀が似合いすぎ」


クッと喉を鳴らして笑う彼の言う通り、今の俺は酷い顔をしているだろう。希沙を幸せにしてやれていない不甲斐なさと焦り、そして富井への殺気立った感情でぐちゃぐちゃだ。
< 222 / 275 >

この作品をシェア

pagetop