とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
短い髪を耳にかけるしぐさ。小さな耳があらわになるとまっ赤になっている。

赤くなるぐらい携帯を強く耳に押し付けたのかと、疑問が浮かんだが、今の問題はそれではなった。

「嘘をつかずに、教えてほしい」

嘘つきなら、この話の中に三人いる。

けれど、これだけは信じてほしい。俺たちは誰一人、華怜を傷つけたくて嘘をついたわけじゃない。

 親友の気持ちを守るために。

 男性恐怖症に捕らわれないために。

 そして――俺は。

「どうして私を騙したのか、教えて」

振り返った彼女の目に大粒の涙が溜まっていた。

騙さなければ、取り付く島もなく話さえも聞いてくれなかっただろう。

騙さなければ、今こうして、一緒の空間に居ること時代できなかっただろう。

騙さなければ――。

騙さなければ、彼女は俺のことなんて思い出せず、自分のためにお洒落して一人気ままに生きていて、こんな風に泣かずに済んだ。

「どうして?」

カーテンを掴む手が震えていた。

なので俺はケーキを冷蔵庫に入れるのも忘れ、カウンターに置くと彼女に近づく。

そして自分でも止められないまま抱きしめていた。

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