とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「どうしてって――聞いているのに」

胸の中で暴れる彼女の短い髪が頬に当たった。

「嫌だったからだ」

俺は嘘をついていた。

本当はずっと嘘をついていた。

「君の髪が、誰かに汚されるのがめちゃめちゃに嫌だった。許せなかった。誰にも触れさせたくなかった」

最初からだ。

衝動的じゃないよ。許せなかった。君の一部として存在してほしくなかった。

最初からだ。

俺は君の髪が汚された瞬間に、君への強い執着と思いに気づいた。

「ごめん。ごめん。――衝動だった。君が髪を伸ばせないと知って会いに行ったら、思いがあふれて止まらなかった。俺はずっと、ずっと初恋を引きずっていた」

どうして結婚してくださいって言ってしまったのか、今、自分でもわかった。

俺は今も昔も、君が好きて好きで好きで。

忘れられたのが苦しかった。もう必要ないと言われたのが苦しかった。

自分はあの日から、気持ちが変わらず今もこうして溢れていたから。

自分勝手に、彼女の人生を奪おうとした。

「何をしてでも、君を手に入れたかった」

傷つけるとわかっていたが、もう嘘だけはつけなかった。
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