とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
贖罪なのかと思っていた。男性恐怖症で結婚をあきらめていた私を、傷物にしたからもらってやるっていう驕った気持ちだと思っていた。

「ごめん。ごめん。――衝動だった」

それでも、違うと彼は否定した。

――はるか昔、私の髪を切った日も、騙したことも違うという。

「君が髪を伸ばせないと知って会いに行ったら、思いがあふれて止まらなかった。俺はずっと、ずっと初恋を引きずっていた」

苦し気に吐き出された言葉は、自分勝手な都合のいい言葉。

初恋だったなんて免罪符になるわけないのに。

「何をしてでも、君を手に入れたかった」

それなのに強く抱きしめられ、息ができなくなるぐらい強く抱きしめられて、彼の本音を耳元でささやかれた。

私は彼を忘れても、彼はずっと私を思っていたと。

騙してでも私のそばに居たかったと。

なんてひどい言葉なの。なんで一人でいいって言う私に自分の気持ちを押し付けるの。

ねえ、どうして。

どうして私は怒っていないの。

胸が痛いのに、苦しいのに、熱くてじんじんしている。

放っておいて。私はあなたを忘れて一人で生きていこうとしていたのに。

どうして涙が溢れるのに、あの日のように私の心は傷つかないの。

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