とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
五、あまい、とろける、いたむ。
一矢くんの妹さんの言葉が気になった。おじいちゃんと一矢くんの仲の良さに疑問が浮かんだ。

 あんなにヒステリックな母が、一矢くんとの婚約をすんなり許可したのもおかしいと思った。

 強制的な婚約を迫られたとき、母の言動や彼の無理強いにショックで冷静な判断ができていなかった。けれど、今、どんどん巻き戻すように思い出すと、不自然な点が目立って、気持ちが悪かった。

全て繋がっている気がして、確かめるしかないと気付いたら行動に移していた。

美矢さんが言っていた祖父の医院の新店舗が三駅向こうにできる話を従兄弟に聞く。

答えはイエスで、それでいて全く経営が悪化している様子は微塵も感じられなかった。

ではどうして、母は嘘をついたの。

ではどうして、そこまでして、彼は私と結婚しようと思ったの。

分からなくて、カーテンを握りしめて外を眺めていた。

早くしなければ雨が降るかもしれない。早くしなければ雷が見えてしまうかもしれない。

この季節の天気なんて信じられないのに。

それでも私は呆然としていて瞬きさえ億劫に感じていた。

騙されたショックよりも、母も彼もどうしてそこまで私に無理強いしたのか。

私は一人で気ままに生きていて、かわいそうに見えたの?

 どうして今更、こんな騙してまでそばに居ようとしたの。

その疑問は、――彼の腕の中で今全てわかった。
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