とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 入ってこないでほしかったが、善意で店長まで入ってきた手前、お願いするしかない。

 店長、辻さん、加えて彼までいる空間で、お昼ご飯をリバースしてしまうのが怖い。

 私は防衛反応で失神するか、嘔吐して遠ざけてしまう場合も過去に何度があった。

 さすがに辻さんに嘔吐するのは、私も嫌なので逃げた。

「もう仕事場には来ないから安心して」

 彼はそれだけ言うと、店長と辻さんに頭を下げて、雨の中颯爽と帰っていった。

 辻さんも店長も首を傾げつつも、閉店作業を手伝ってくれて、白鳥さんが戻ったときには一緒に帰宅することができた。

「ごめんね。旦那には辻くんをうちの店に連れてこないでってきつく言ってたんだけどさあ」

「いえ。私が未だに男性にこんな症状のせいです」

とは言いつつも、白鳥さんと二人だけの車の中は空気が美味しく感じてしまう。

「辻くん、悪い子じゃないのよ。でもあの子、モテるでしょ。自分に興味ない華怜に興味もっちゃったみたいで」

「はあ」

 だから隙を見ては話しかけようとしてくるのか。

 私が男性と接触してこなかったばかりに、興味を持ってしまったわけか。

 普通の女の子だったら、モテる彼にはきっと気にもかけてもらえない。

「で、他には何もなかった?」

< 31 / 205 >

この作品をシェア

pagetop