とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 白鳥さんが探るように私を横目で見る。

 きっとこれは、彼が来たことを気づいたに違いない。

「いえ。……とくには」

もう店には来ないというのだから、大丈夫。

バンカーが何度も雨を払っても、視界がすぐに遮られてしまう夜だった。

まるで今の私の、狭くて小さい思考のよう。

雷が何度もなるので、ヘッドフォンをつけ歌を口ずさみながら、雷の存在を頭の中から追い出した。

彼が何をしようとしているのか、雷から逃げるかの如く彼から逃げていた私には知る由もなし。

ただ――雨の夜が明けると、母が家に尋ねてきた。

< 32 / 205 >

この作品をシェア

pagetop