とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「昨日って、私、昨日いきなりプロポーズされたのよ」

「じゃあそのあとね。貴方が断ったから、そんな手段を取ったのかしら。結納金と思えば、悪い話じゃないわ」

母は、今の生活を捨てたくなくて、私を売るのに全く躊躇していない様子だ。

……自分の親がこんな人だったなんて、そっちの方がショックは大きい。

「別に相手は貴方が好き。貴方のためならお金も労力も厭わない。問題は貴方のその逃げている根性だけ。何も問題ないじゃない」

「お母さんじゃ話にならない。父やおじいちゃんともちゃんと話をさせて」

「断るの? 有名私立に編入させてもらって、大学も行かず専門学校なんて行って安月給で生活して、おじいさまが困っても何も力になれないのに? じゃあ貴方は何ができるの?」

今まであの事件について、母がこんなに言ってくることはなかった。

それは、私が傷ついているから、敢えて避けてくれていたと思っていた。

なのに、今、目の前にいる母が今までずっと暮らしていた母には思えなかった。

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