極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
ロイヤルと組事務所は徒歩三分ほどの近距離なので、その建物はすぐに見えてきた。

最初はこんな怖い所には二度と来たくないと思っていたのに、今、胸を弾ませて向かっているとは、恋するパワーは危機意識を奪い去るようだ。


組長、猿亘慶造の大名屋敷のような大邸宅の塀に沿って実乃里が歩いていると、いつもは静かで完全に閉ざされている門前に、今日は人影があることに気づいた。

ダークスーツ姿の強面の男性が九人いる。

ひとりは以前、事務所内で会ったことのある、本部長の斑目だとわかったが、他の八人は知らない。

だが、ここにいるということは、猿亘組の構成員に間違いないだろう。


実乃里は彼らを避けるように、車線のない道の向かい側に移動した。

すると、全開にされた門の内側に、雅な日本庭園や石畳、荘厳な構えの邸の玄関が見える。

思わず足を止めたら、見知らぬ組員の男が実乃里を鋭く睨みつけ、道を渡ってこようとしている。

見るからに無害そうな若い娘であっても、開門されている時は周囲から部外者を排除する決まりがあるのかもしれない。


慌てた実乃里は会釈して、足を前に進める。

睨んできた極道は元いた場所に戻ってくれたのでホッとしたが、このままでは隣に建つ事務所を素通りすることになりそうで、実乃里は困った。


(どうしよう。隣に用があるんですけど……とは怖くて声をかけられない。出直せば、せっかく温かい料理が冷めてしまうし……)


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