極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
道を挟んだ組事務所の前に実乃里が差し掛かった時、前方から黒い高級車が徐行で走ってきて、屋敷の門前に停車した。

普段とは違うスーツを着た一尾の姿が運転席に見え、助手席から降りたのは龍司だ。

彼もいつもとは違い、ネクタイを結んだスリーピースの礼服姿で、実乃里は完全に足を止めて振り返り、美々しい龍司に見惚れた。


(着崩した黒いワイシャツ姿もかっこいいけど、礼服をきちんと着ている龍司さんは紳士的で素敵……)


龍司は実乃里に気づいて微かに眉を寄せたが、構うことなく、傘を広げて差しかけた。

組員が開けた後部席のドアから降り、龍司の傘に入ったのは、袴に羽織姿の高齢男性。

後ろ姿で顔は見えないが、おじいちゃんといったほのぼのした雰囲気ではなく、凄みや貫禄、威圧を背中から醸し出している。

おそらくあの老人が、猿亘慶造だろう。

若頭として仕える龍司は、悠然とした組長の歩みに合わせて門を潜り、迎えに出ていた極道たちが揃って頭を下げていた。


(あんな怖そうな人たちを従えるなんて、組長の存在は絶対的なんだろうね。その組長を龍司さんは逮捕しようとしているんだ。慎重に五年も歳月をかけて……)


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