一生に一度の「好き」を、全部きみに。

今でも色あせることなく、色濃く残るたくさんの思い出。咲との日々があったから、今の私がいる。

会わなくなればすぐに忘れられると思った。

それなのにダメだね。

未練がましくSNSを覗いて、咲の歌声を聴く毎日。わざとらしいAというアカウントまで作ってフォローまでした。

たくさんのフォロワーがいる中で、目立たないようにコメントも控えめにしてたのに……。

どうして?

メッセージがきたとき、一番に感じたのは戸惑いでも拒絶でもなくて。

うれしいという気持ちだった。

咲の幸せを願って別れたのに、自分の身勝手さに涙が出てくる。

コンコン

部屋がノックされて私は慌てて涙をぬぐった。

「葵、入るよ」

仕事を終えたお父さんは毎日お見舞いにきてくれる。特になにをするでもないけど、今日あった出来事を話して一時間くらいで帰るそんな毎日。

「ねぇ、お父さん。どうしてお母さんと結婚したの?」

「え?」

お父さんにお母さんのことを聞くのは初めてだった。でも私はどうしても知りたかった。

「だってお母さんは心臓病だったんでしょ? 今の私みたいに重症で、死ぬかもしれないって知ってたんだよね? それなのに、なんでお母さんと結婚したの?」

きっとツラかったよね、お父さん。

「なんでって、それはやっぱりあれだよ」

お父さんは歯切れ悪く言い、なかなか次の言葉を言おうとしない。

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