一生に一度の「好き」を、全部きみに。

「お母さんを愛してたからだ」

「愛……」

「今の葵とお母さんはそっくりだ。お父さんはお母さんに何度も振られて、そのたびに追いかけて気持ちを伝えたんだ」

「え……? お父さん、振られたの? 何回も?」

だけどお母さんの気持ちが私には痛いほどわかる。きっとお父さんにツラい想いをしてほしくなかったんだよね。

自分以外の誰かと幸せになってほしかったんだ。

「振られたよ、何回も。お父さんの家は一般家庭とはちがったし、身の丈に合わないからって言われてね。でもきっと、葵と同じ気持ちだったんだろうな」

「お父さん……」

「だから、お父さんは鳳くんの気持ちがすごくよくわかるんだ。まるで自分を見てるみたいだからね。四年前も、つい彼の味方をしてしまった」

お父さん……。

「離れることが必ずしも幸せだとは限らない。お父さんはお母さん以外の人と一緒になる気も、好きになれる気もしなかった。お母さんと一緒にいることが、お父さんにとっての幸せだったんだよ」

お父さんの目が潤んでいた。

それを見て私も切なくなる。

離れることが必ずしも幸せだとは限らない……か。

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