溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
恋愛に関してのインスピレーションはいまいちピンとこないが、博人といて嫌な気分にならないのは事実。それがどういう心の変化につながるのかは、今の美華にはわからない。
「設計するのは、こういった大きな建物が多いんですか?」
「どちらかといえばそうだな。あとはホテルやホール、商業ビルなんかも。少し小さいのでいえば教会とか」
意外とそこかしこに博人設計の建築物がありそうだ。
「この建物は結構苦労したんだ。波打つ壁面の滑らかさを確保するためには、高い施工精度が求められてね」
設計について熱く語り始める。熱心に話す博人をそっと見上げると、美術館を眺める真剣な、それでいてうれしそうな横顔だった。
その話を聞きながら、つい彼に見入る。
自分の仕事に誇りをもち、それが自信となって彼の一部を形成しているのだろう。
ゆっくりと歩きながらこだわりの外観を説明する様子は、とても魅力的だった。
美術館を後にし、それからも博人設計の建物をあれこれと見て回る。
会話の途中で出てきた教会もホテルも、どれも立派なものだった。設計者本人と知り合った自分まで、なぜか誇らしくなるから不思議だ。
説明を聞いたせいか、その建物をよく知っている感覚に陥って感慨深いものがあった。