溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
「俺もちょっとしたものなら作れるしね。おいしいかどうかはべつとして。ひとり暮らしが長いから、ひと通りのことはできる」
迷う背中を強く押された感覚だった。
父の正隆は家のことがいっさいできない人のため、家事のできる夫の存在は夢物語かなにかのように考えていた。そういう父親を見ていたせいもあり、結婚は早くしなくてもいいと。
なんて殊勝な心がけなのか。
「しかし美華はほんとにおもしろいな」
「……なにがですか?」
「普通は、〝私はこんなにできるんです〟って自分をよく見せようとするだろ。美華はその逆」
言われて気づき、目をぱちつかせる。
「ほんとですね。でもハードルは低いほうがいいので」
最初から高くしていたら飛び越えるのも大変だ。最低ラインを提示しておけば、相手の失望もある程度は抑えられる。
「やっぱり美華はおもしろい」
「そうでしょうか……?」