溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
◇◇◇
午後一時。
時報のごとく家のチャイムが鳴り、リビングでそわそわと待機していた三人は揃って「来た!」と声をあげた。
頑張れという両親の声援を受け、代表して美華が玄関へ向かう。
ドアを開けるとそこには、昨日同様にスーツ姿の博人が立っていた。
仕立てのいいブルーグレーのジャケットに、ちょうど昨日の美華の着物のように春らしい桜色のワイシャツを合わせた、爽やかなスタイルだ。
昨日はラフな印象だったヘアスタイルはサイドを整髪料できっちりと固め、誠実さと清潔さを前面に押し出している。
明るい春の日差しのせいか、やけに眩しい。
顔を見た途端にキスしたことが蘇って頬が熱をもつから堪らない。
「こ、こんにちは」
ぎこちなく挨拶をする美華に「よっ」と軽い調子なのは、昨日のまんまだ。
「疲れてないか? 昨日は慣れない着物だったのに、さんざん連れ回して悪かったな」
「あ、いえ、大丈夫です」