同窓会〜あの日の恋をもう一度〜
「この前うちの銀行の窓口に来てたから、声をかけたんだけど、相変わらず可愛いな」

銀行の窓口に? 一体何を話したんだ?
俺は目の前にいる同級生の次に発する言葉を待った。

「西田さ、短大出てからこっちに帰って来てるんだって。
で、駅前にある昔からある税理士事務所で働いてるって」

彼の一言が、まるで目の前に垂らされた細い蜘蛛の糸の様に思えた。

ほんの僅かな希望の光。

手繰り寄せて縋ってしまうと切れてしまいそうな程に脆く危うい。
でも、それ程までに恋い焦がれている西田の情報を手に入れたい想いが優ってしまう。

「こっちに帰って来てるって……?」

もしかして、既に誰かの物になってしまっているのだろうか。

「ああ、ご両親と妹がいたの覚えてるか? 三人は九州の温泉街にある古民家を買って、そっちでオーガニックのパン屋をするからって五年前に向こうに行ったらしい。
西田はこっちに残って、知り合いの税理士事務所に就職したって言ってたぞ」

それを聞いて、胸が躍った。
でもまだ肝心な情報が聞けていない。

「……結婚とかは?」

自分の声が少し震えているのが分かった。
もし西田が誰かの物になっているのなら、もう潔く諦める。
初恋を引きずっている拗らせ男子なんてキモいだろう。

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