花と黒猫の輪舞曲
(取り合えず、これで良いかな?)

少し乱暴だったかもしれないけれど、力まかせにベッドに乗せて布団を掛けてあげると男の子の表情が幾分か和らいだ気がする。

そのことにホッとしつつ近くにあった椅子をベッドの側に寄せ、制服が濡れている為に心持ち遠慮がちに腰かけた。

(…綺麗な顔)

長い睫毛を縁取るその瞳は今は固く閉ざされ、汗で少し張り付く髪に触れればサラサラと音が鳴る様に横に流れてゆく。肌は白くキメ細かくて、言ってしまえば美形だった。

(本物、なんだよね?)

頬に触ると確かに暖かく、その幼い胸は上下に動いていて生きてる事を証明している。

間違いようもない。
ずっと昔から、子供の頃から毎日見ていた顔なんだから。

(…やっと会えた)

そんな思いが胸を苦しく締める。どうして会えたのかとか不思議に思う事は多いけれど、落ち着いた今では自分ではどうする事も出来ない程の歓喜がジワジワと体を奮わす。

早く起きて欲しい、早く声を聞かせて欲しい。

(なんだか、私ったら恋する乙女みたい)

ふと浮かんだその言葉に苦笑いが漏れるけれど、あながち間違ってはいないかもしれない。

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