Before dawn〜夜明け前〜
「風祭の隠し子だとバラされたくないなら、言うことを聞けと脅されているんだ。
いっそ俺のせいにして、全てを受け入れろ」


言葉は、相変わらず酷い。
だけど、その瞳は優しくいぶきを見つめている。

わざと酷い言葉を投げかけて、いぶきに救いを与えてくれている。


優しい人。


ーー私は脅されている。この行為に感情なんかない。ただの御曹司の気まぐれ。
どうせ、この一度で、すぐに忘れられる。


そう思えば、身体中の力が抜ける。


「一条さん…」

「その名は今はいらない。
拓人と、呼べ。いぶき」

一条の御曹司じゃない。
この人は、いぶきの秘密で脅して、弄ぼうとしている男。


ーーそれでいいんじゃない?


彼の気まぐれに、付き合ってみてもいいのではないだろうか。
遅かれ早かれ、この身体は風祭の為になる、見知らぬ誰かに貢がされる運命だろうから。

ならば、最初くらい、極上の男に抱かれても許されるのではないだろうか。


…許される。


誰に?


たぶん、運命に。


出口のない闇を彷徨ういぶきの手が、本来なら決して交わることのない、光の世界を突き進む運命を生きる男の体に触れた。


「…拓人」


いぶきは、そっと呼びかける。
彼の漆黒の瞳に、己の顔が映っていた。


「私は、秘密を守る為に。
拓人は、秘密を守る対価に。

私たちは、共謀者よ、拓人」


いぶきの目に、力が宿る。
一条をとらえて離さない、あの目だ。


「言うじゃないか。
共謀者。
共に、今は全てを捨てて、溺れよう」

そしていぶきは、拓人に全てを委ねた…






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