Before dawn〜夜明け前〜
9.光〜闇を照らす光〜

居合わせた友人

「おっ、拓人君、いらっしゃい。華子さんも、久しぶりだねぇ」

寿司利久の大将が、威勢の良い声で迎えてくれた。

「おや、お嬢じゃないか!日本に来てたのかい?」

入店したいぶきに、大将は一際声をあげる。

「お久しぶりです、大将」

「うれしいねぇ。オヤジはどうだい?」

「頭と口は元気です。
私、週末にはアメリカに帰ります。
その時、また、お土産に大将のお寿司持って帰る約束してるんです。よろしく」

「おぅ。オヤジの為ならいつでもオーケーよ。
お嬢、今日もたくさん食べておいきよ。拓人君にツケておくからよ」


通された予約席で九条は目を丸くしている。

「桜木先生、大将ともお知り合いなんですか!
一体、先生は何者⁈」

「何者って、ただの弁護士です」

「えーうそぉ。副社長、教えてください。桜木先生って…?」

拓人は、意味深に笑ったまま、答えない。

「教えてください、副社長」

「華子くん、そんなに気になるのか?」

うなづく九条の前で拓人はおもむろにいぶきを抱き寄せた。

「いぶきは、公私ともに、俺のパートナーだ」


いぶきも九条も、息を飲んだ。
いぶきは驚いて身を固くし、九条の顔はみるみるあおざめた。

「副社長の、本命の恋人ってこと、ですか?」

泣き出しそうな九条。いぶきは、拓人から体を離して首を横にふる。

「恋人なんかじゃない。
私は、拓人と一緒に一条の為に戦う。その為に弁護士になったの。
私の人生を一条拓人に賭けたのよ。これから、拓人の、右腕としてバリバリ働くわ」

「恋人じゃ、ない?」

こわばった九条の顔がゆるむ。

「まぁ、恋人なんて枠には収まらないな。
頼もしいだろ。俺の右腕」

「じ、じゃあ、私は副社長の左腕になりたいですっ!」

叫んで九条は顔を真っ赤に染めた。その一つ一つの仕草が愛らしい。女のいぶきでさえ、手を差し伸べたくなる。

「可愛い。
よかったわね、拓人。こんな可愛い子が側にいてくれて」

いぶきはにっこり微笑んで立ち上がった。


「どこ行くんだ?」

「ちょっと、お手洗いに」

いぶきは、ヒラヒラと手を振って個室を出た。

九条を見ていると、不戦敗だとわかっていても胸がモヤモヤする。
あんなふうに、誰にでも愛されるような愛嬌が欲しい。
絶対に、無理だけれど。





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