Before dawn〜夜明け前〜
「先生、うちの父って、すごく変わってたでしょう?気難しくて。
あの父の助手を務めたなんて、先生を尊敬します。

ぜひ、お話してみたいんです。先生のこと、知りたいな。
ね?一緒にご飯、行きましょう?」

「あの、えっと…」

いいよどむいぶき。
と、そこへ、不意に声が降ってきた。


「俺は久しぶりに、寿司利久へ行きたい」


二人の前に現れたのは、拓人だった。

「副社長!お疲れ様です」

ひどく驚きながらも、嬉しそうに頬を染める九条。

「では、寿司利久、すぐに予約しますね」

いぶきが言葉を発する前にテキパキと九条が手配する。さすがは秘書だ。



「私はすぐに帰りますよ。NYに連絡しないといけないし」

半ば強引に車に乗せられたいぶきがやっとそれだけ言う。

「高司先生に聞いたぞ。昼メシも食わなかったそうじゃないか。
最初から力みすぎだぞ」

拓人に言われて、いぶきは肩をすくめる。

「日本にいる間に少しでも進めておきたくて。
昼食は…私、あんまりお腹空いてなかったし。
しかも、うっかり両替忘れちゃって、ドルしかなかった」

「なんだよ、なら、言えよ。
全く、黒川がいないとダメだな」

いぶきと拓人のくだけた会話に九条が首をかしげる。

「副社長と桜木先生は、お知り合いなんですか?」


いぶきは、ハッと息を飲む。
二人の関係。改めて聞かれると、答えに困る。

「一条さんとは、高校の時からの知り合いで」

まずいぶきの口をついて、それが出てきた。
九条は身を乗り出して、ウンウンと頷く。
だが、それ以上はうまく言葉にならない。言葉を探して言いよどんでいる間に、車は寿司利久へと到着した。





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