Before dawn〜夜明け前〜

二人の関係


友人にさえ、なれない。
彼の右腕となることを夢見てこれまで生きてきたのに。拓人は、それも望んでいない。

やっぱり、あのネックレスのように、絆も千切れてしまった。

いぶきは、例えようもない虚無感に襲われた。

拓人の足音が遠のく。

これで、全て終わってしまう。

最後に望むことはただ一つ。
拓人が幸せでいてくれること。

ーーこれで、いい。
私がいなければ全て上手くいく。
私は、拓人の右腕となりたかった。
でも、そうね、代わりなんていくらでもいる…
友だちにさえなれない…私なんかじゃなく…


いぶきは立ち去る拓人の背中を見つめた。

あの背中はいつもいぶきの前にあった。
追いかけていけば、いつか並べる。
それだけを思い、ここまで走ってきた。
だけど。


“一条拓人夫人は、私よ”
九条華子が拓人の隣で微笑む姿を思う。


そのとたん、いぶきは足元に絡みつく呪いの足枷の存在を忘れた。

「待って。
行かないで、拓人」

拓人を失いたくない。
その思いが、いぶきをがんじがらめにしていた、風祭の呪いや桜木の社会的立場といった枷を忘れさせた。

無意識にベッドから降りようとした。だが、点滴が引っかかり、しかも脇腹のキズが酷く痛む。

「痛っ…!」


「ったく、バカ!何してんだよ、お前はっ!」

くるりと身をひるがえし、拓人はいぶきに駆け寄り手を差し伸べた。

「行かないで、拓人。ごめんなさい。
せめて、友人でいさせて。
結婚するなんて、言わないで。
本当に手の届かない人にならないで…お願い…」

いぶきは、拓人に泣きながらしがみつく。

「全く、君はとんでもなく頭の良い弁護士のはずなのに、何も分かってないんだな。



俺は、結婚するよ」



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