Before dawn〜夜明け前〜
10.新しい生活

いぶきの生活


アメリカ。ジェファーソン法律事務所。



「よぉ、イブ。
今夜、皆でバーに行こうと思ってるんだけど、たまには君もどうだい?」

同僚のダニエルが声をかけてきた。

「ごめんなさい。行かないわ」

いぶきはサラリと誘いをかわし、自室へと向かう。
するとダニエルは、チッといぶきに聞こえるほどの舌打ちをして、いぶきの背中に向かって嫌味を言いはじめた。

「やっぱり、日本人は何考えてるかわからないねぇ。
あんなつまんねぇ女にも、男がいるっていうんだからよぉ。物好きってのはいるもんだ。
あのクールビューティがベッドの中でどんな反応するかなんて、考えたくもねーや」

「イブ、気にしちゃダメよ。ダニエルは、イブに嫉妬してるんだけ。
ワンズ社が、ダニエルからイブに指名を変えたから」

いぶきが自室に戻ると、聞こえていたケイトが眉間にしわを寄せて言った。

「わかってる。気にもならないわ。
心配してくれてありがとう、ケイト」

「さすが、イブ。

…ハロー?」

その時、デスクの電話が鳴り、ケイトが取った。

「あら、珍しい。
イブの携帯じゃないなんて。
…あ、なるほど。わかるわぁ!すごくわかる。
私達、話が合うわねぇ。
ちょっと、待ってね」

ケイトは受話器をいぶきに差し出した。

「イブ、ハナコ・クジョウから電話よ。
携帯、繋がらないって。
また、気づかなかったでしょう?
マナーモードかしら?」

「あーバッグの中に入れっぱなし!
気づかなかった!ごめんなさい」

「もーイブは、いつもそう。
ブラックか、私がいないと連絡が取れないんじゃ困るから!」

いぶきはぺこぺことケイトに頭を下げながら、受話器を取った。

「もしもし」

『あ、いぶき先生?九条です』

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