Before dawn〜夜明け前〜
いぶきは、拓人と結婚し、一条いぶきとなった。
だが、父とアメリカで暮らし、仕事もジェファーソン法律事務所で働いている。
今まで通り生活は変わらない。

拓人は東京暮らし。
いぶきに会いに月に一度はアメリカに来る。


そんな離れた生活を送っていたが、先日、いぶきの妊娠がわかった。

黒川とマリアはすぐに妊娠、出産、そして子守に関する知識を得るため、勉強を始めた。

一樹と勝周に至っては、先程の通り、喜び過ぎとも言えるほど浮かれている。

いぶきも、まだあまり体の変化は感じていないがもう二度と悲しい思いはしたくないと、これまで以上に体に気をつけていた。



そして、拓人は…



「副社長、こちらにサインをお願いします」

拓人は、デスクで大量の書類と戦っていた。
そこへさらに九条が書類を追加する。

「あぁ、急ぎかい?」

「いえ、まだ大丈夫です。
午前中はそちらを優先してお願いします。昼食会のあと、午後は、IJソリューションズの会議に“会長”として出席ですから」

「全く、親父にも困ったもんだ。
仕事、全部俺に振って自分はアメリカだもんなぁ。ただでさえ忙しいって言うのに」

これまで、新規事業だったIJソリューションズの仕事は、勝周が会長として業務の責任を負っていた。拓人は形だけの専務だったのだが。
孫が楽しみで仕方ない勝周は、拓人に後を託し、アメリカに渡ってしまった。

IJソリューションズは、拓人が手を出さなくても成り立つように構築されてはいるが、何かあればトップの責任者として拓人が前へ出なくてはならない。

「一条商事の業務で手一杯だというのに。
親父は、俺を過労死させるつもりだな」

「副社長を信じてらっしゃるんですよ。
あ、ほら、終わったじゃないですか!さすがは副社長!
じゃ、この後は二葉商事との昼食会です。参りましょう」


拓人はひとつ大きな伸びをすると、九条に急かされるように立ち上がった。



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