Before dawn〜夜明け前〜
入学式は、何ごとも無く無事に終わった。

新入生代表挨拶は、ひどく顔の整った、だが仏頂面の男子生徒が、やる気無さそうに読み上げた。

「…新入生代表、1年A組、丹下広宗」

先程、逃げたと言われていた生徒の名前だった。
いぶきと同じクラス。



入学式が終わると、そのまま、生徒会主催の新入生のオリエンテーリングが始まる。

その間、親たちは、教室で保護者会だ。

「では、ただ今より、新入生のオリエンテーリングを始めます。
まずは、生徒会長3年A組一条拓人(いちじょう たくと)より、挨拶です」

壇上に一条拓人が姿を現したとたん、女子がキャアキャアと騒ぎ出す。

先程、いぶきに声をかけた生徒会長だ。

「カッコいいよねー!その辺のアイドルなんかより、ずっとカッコイイ!」
「しかも、一条家っていったら、超名家だし。
頭も良いんだって。もぉ神さまったら、一条センパイにどれだけ贔屓してるのってカンジ」
「彼女とか、いるのかなー?」
「そりゃ、いるでしょ!モテないはずないじゃん」

周りのざわめきが与えてくれる情報をしっかりと聞き取りながら、いぶきは拓人を目で追った。


はっきり通る声。低く、柔らかで少しツヤのある声。整った容姿。笑みをたたえたその表情は、女子生徒をときめかせる。

ーー神様に贔屓されている人、か。

でも、あの、目。
漆黒の瞳の奥は、決して笑っていない。

普段から、風祭家の人々の顔色を伺いながら生活をしているいぶきは、目は口ほどに物を言うことをよく知っている。

いぶきは、拓人から目をそらした。

…関わらない。
もう、二度と関わることなんてない。
気にしない。
あの目の奥の感情なんて…

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