Before dawn〜夜明け前〜
「このスコーンは、手作り?」

尋ねたのは、丹下だ。
既にスコーンを口の中に放っている。

「あら、美味しくなかったかしら?」

ジロッと玲子がいぶきを睨む。

「いや、美味い。
風祭は、いい使用人がいるな」

丹下はそう言って、いぶきを見た。
その目がまるで嘲るように、いぶきをとらえた。


ーー気づいてる。…二人とも、気づいてる。


いぶきは咄嗟に感じた。
確証はない。
直感だ。

だが、玲子は全く気づいていない。

「あら、そう?お口にあって良かったわ」

玲子がそう言って満面の笑みを二人に向けたので、ほっとしていぶきは客間を出て行こうとした。


だが。


「あっつ!」
「…あ、すみません、先輩!」

お茶を飲んでいる一条と、菓子を取ろうとした丹下が接触し、一条が手にお茶をこぼした。

「まぁ、大変!」

玲子が叫ぶ。
いぶきはタオルを手に一条に駆け寄った。

「風祭、悪いけど、何か冷やすものをくれないか?」

丹下が青ざめながら玲子に告げる。

「そうね、いぶき、取って来なさい」

玲子は、こんな時でさえ自分では動かない。しかも、自らいぶきを名前で呼んだ。

ーーあぁ、これで、完全に、気づかれた。

いぶきは絶望感に苛まれながらも、急いで氷を取りに行こうとした。

「いや、直接冷やしたい。
洗面所連れて行ってくれないか?」

「はい」

いぶきは、一条の手をタオルで押さえながら、慌てて洗面所に連れて行った。

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