Before dawn〜夜明け前〜

The darkest hour is just before the dawn.


拓人は予備校から帰ると、まずシャワーで汗を流す。
それから夕飯をいぶきと一緒に食べる。

食後、拓人は再び、机に向かう。
いぶきは食事の後片付けをする。それから本棚からビジネス書を一冊選んで、拓人のベッドに腰掛けて読む。

と、これが二人の毎日。


アメリカへの出立を翌日に控えた今日も、特別なことはしていない。

いつもと変わらない時間の過ごし方。
いぶきも拓人も、明日には別れてしまう事実を認めたくなかったのだ。

その為にも、いぶきはいつも通りに過ごそうとした。

だか、今夜は読みかけた本がどうにもつまらない。やはり、気持ちが落ち着かないせいかもしれない。


本を棚に戻して、いぶきは拓人の机に歩み寄った。
今夜は日本史を勉強している。

「拓人、この参考書、読んでいい?」

「…ダメ。
いぶき、一回読めば内容全部覚えるだろ。
俺の自信なくなるから、ダメ。

全く、その頭、交換して欲しいよ。
こっちがこんなに机に向かってやっと覚えるのに、一体どうなってんだ?」

「お父さんからの遺伝みたいだよ」

「桜木さんかぁ。
うちの父さんも桜木さんには敵わないって言ってたもんな」

拓人は、手を止めてその場で大きく伸びをする。


「ダメだ、今日はもう頭が疲れた」


いぶきは、拓人の手元をのぞきこんだ。ノートはビッシリ。参考書にも書き込みがいっぱいだ。
彼の努力の跡が、まぶしい。


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