Before dawn〜夜明け前〜

風祭の影




「あ、イブ。
電話なんだけど、どうも、日本語なの。代わってくれない?」

ジェファーソン法律事務所の電話受付担当者から、いぶきに電話が回ってきた。

「OK。

もしもし、お電話かわりました。
まずはお名前とご用件をどうぞ」

『お、なんだ、日本人か。よかった、通じる。

実は人を探しています。そちらに“青山いぶき”というスタッフはいませんか?』

青山いぶき。懐かしい響き。
だが、電話から聞こえる若い男の声に聞き覚えはなく、何となく不安を感じた。

「あの、お名前は?」

『私は風祭と申します』

「かざ…まつり…」

いぶきの背をサッと冷たいものが走る。

風祭。
その名はいぶきにとって忘れ去った過去のはずだ。

『…もしや、青山さん、ですか?
私は風祭玲子の夫で風祭司(かざまつり つかさ)といいます。はじめまして。
実は、あなたに折り入ってお願いがありまして』

風祭司は、いぶきに気づいて一気に話し出す。

「ストップ。
仕事の依頼ですか?
どんな依頼かお聞きする気もありませんが、ここに“青山いぶき”は、おりません。

では」

『ま、待って下さい。
風祭を…風祭を救って欲しいんです。あなたの力が必要なんです』

いぶきは切りかけた電話のボタンから、手を離す。

「…救う?」

『えぇ、今、義父は贈賄の容疑で警察に。
玲子には覚醒剤所持の容疑がかかっています。
あてにしていた弁護士には法外な費用を請求されてしまい…

そうしたら、お義母さんが。

“いぶきがいる”と』






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