Before dawn〜夜明け前〜
「…調子のいいこと。

私が風祭を離れる時、一条からそれまでの養育費を。
私が今の父に引き取られた時、今後一切の関わりを持たないとの誓約書に署名する引き換えに莫大なお金が、そちらの手元に入ったはずよ。

この電話は、誓約違反です。
あなたはあの時いなかったから、今回は特別にしますが、次は、違約金を払ってもらいますよ。

億単位の支払いが発生すると、覚悟して下さい」

『お金が全てなんですか?
正直、自分はあなたのことをよく知らない。だけど、少なからず恩になった家にそんな冷たい…』

「恩?
あなた、知りもせず、そんな言葉を使うものじゃない。
あの人も、よく私がいるなんて言ったものだわ。

冗談じゃない。

全てを清算するのに、大金を請求したのはそちらよ。父の温情でそれで済んだ事を感謝して欲しいくらい。
私や父がリークしていれば、とっくに政治家人生終わっていたのに。

もう、二度と電話なんてしないで」

今度こそ電話を切る。それからすぐに秘書のケイトに内線した。

「今の日本人から電話が来たら無視して構わないわ」

「さては、イブが弁護士だって知って、昔の友達が何が厄介事持って来た?」

「当たり。じゃ、ヨロシクね」

弁護士事務所にいれば、そんなことはザラに発生する。秘書のケイトはそのあたりを上手にさばく手腕に長けている。任せておけば大丈夫だ。






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