Before dawn〜夜明け前〜
いぶきは、パソコンに向かい、“風祭英作”を検索してみる。すると、トップニュースで英作と玲子の逮捕を伝えていた。

大臣まで務めた大物現職議員の逮捕。
元モデルで現在はコメンテーターなどでテレビへの露出もある娘の玲子もほぼ同時に逮捕。

「イブ、頼まれてた資料よ。
あら、なぁに、日本のニュース?」

ケイトが、いぶきのパソコンをのぞきこんだ。

「うん…
ねぇ、ケイト、私の次の休暇っていつだっけ?」

自分の口から不意に飛び出した“休暇”の言葉に、自分自身が驚いた。


ーー休暇を取って、どうしようというの?
風祭の為に何かしようというの?
そんな、バカな。
もう、関係ない。風祭と私は何の関係もない。

いぶきはそっと、背中に手をやる。

振り下ろされる鞭の音。肌を切り裂く痛み。
忘れていたはずの苦しみが、全て昨日のことのように蘇る。


だが、いぶき以上に驚いたのはケイトだ。

「ちょっと!どうしちゃったの、イブが休暇の話なんて!
そりゃあ、仕事狂いで弁護士の仕事と結婚してるみたいなイブですもの、有給はたっぷり溜まってるけど。
でも、今はダメ。出張ならまだしも、休暇は無理よ。
わかってるでしょ?もうすぐ裁判よ。他にも、難しい案件抱えてる。どれもイブじゃなきゃダメよ」

鼻息荒く力説するケイトに、いぶきは苦笑する。

「弁護士の仕事と結婚して、毎晩法律と寝てる。
もう、ボスとおんなじ事言わないで。
わかってる。ちょっと聞いてみただけ。
資料ありがとう、ケイト」

風祭。

その名は、今もいぶきの胸の深い闇にある。




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