俺様課長のお気に入り
「陽菜ちゃんは、要君のことがすごく好きなのね?」

「……うん」

「私は昔から翔が好きで、翔としか付き合ったことがないから、いいアドバイスはできないかもしれないけど。一つ思ったことは、陽菜ちゃんは、誰かに遠慮したり気を遣ったりせずに、自分の気持ちに素直になることが大事なんじゃないかなあ?」

「素直に?」

「そう。だって、陽菜ちゃんの心は陽菜ちゃんのものでしょ?誰かに指示されて気持ちを偽ったり、何かに遠慮して本音を隠すのはおかしいでしょ?」

「うん。そうだね」

「だから、自分の気持ちに素直になることが一番なんじゃない?それによって、相手との関係が変わっちゃうこともあるけど、自分の気持ちに蓋をしちゃうなんて、ずっと辛いままじゃない?」

「確かにそうだね。もう一度、自分がどうしたいのか見つめ直してみる。真美さん、ありがとう。なんか相談したら気持ちが軽くなったよ」

「それはよかった。翔も私も、陽菜ちゃんの幸せをいつも願ってるんだからね。あっ、でも今の話を翔が知ったら大変なことになりそう。絶対に秘密にしないとね」

そう言うと、真美さんは悪戯っ子のようにウィンクした。


その後、夕方になるまで真美さんとたくさん話をした。
翔君は、もうすでにお腹の赤ちゃんに対して、想像以上の溺愛ぶりを発揮しているらしい。

「性別もわからないのに、あれこれ買ってきたり、既に名前も考えてるのよ。しばらくは赤ちゃんに目が向くだろうから、陽菜ちゃんへの過干渉はマシになるはず」

「それ、私も感じてるよ。前ほど連絡してこないもん。翔君の溺愛はすごいもんね。職場の先輩に話したら、すごく同情されちゃった」


ひとしきり、翔君のシスコン話で大笑いして、気持ちが晴れたところで帰ることにした。

「真美さん、今日はありがとう。赤ちゃんのことで手助けが必要な時は言ってね。何もできないかもしれないけど、いつでも呼んでね」

「ありがとう。陽菜ちゃん。陽菜ちゃんも、いつでも遊びに来てね。相談にも乗るからね」

「うん。それじゃあ、真美さんまたね。翔君にもよろしく」

午前中の無気力が嘘のように、帰りの足取りは軽くなった。

「ケイ君、今日は真美さんに話せてよかった。まだどうしたらいいのかわからないけど、私、自分の気持ちに素直になってみるね」

そう呟くと、ケイ君は尻尾を揺らした。
まるで「がんばれ!」って言ってくれてるみたいに。


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