蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「蓮司さんは? 私、蓮司さんのことなにも知らないんですけど……釣書を交わしてないから、年齢すらわかりません」


 私たちはこの同棲が見せかけのもので、お互いに腹の中では相手の出方を窺っている関係だとわかっている。だから相手に対する興味を口に出すのに少し勇気がいった。

 気軽に訊けないのはそれが婚約者としての演技だと言いきれるのか、自身の心理がわからないからかもしれない。また、彼のことをたくさん知ってしまうと今までみたいに毛嫌いし続けることができなくなりそうで、それも怖かった。

 でも一緒にお酒を飲んでいる今なら、年齢ぐらい訊いてもおかしくないわよね?

 一杯で酔える体質だからすでに頭は普段の状態ではなくなっていて、臆病にしり込みする自分と鷹揚な自分とが混在している。


「ああ、そうか。俺は四年前に履歴書を見てるから大体のことは知ってたけど、フェアじゃなかったよな」


 それから彼は自身のことを幾つか教えてくれた。
 奨学金で大学を出て他企業に一度就職したあと、橘ホテルグループに入社したこと。


「母は俺が中学生のときに亡くなった。父親はいない。高校を出るまでは親戚の世話になった。こう言うと苦労話に聞こえるけど、別にそうでもない」


 あまり多くは語りたくないようで、彼はさらりと短く話をまとめた。


「このマンションは母が遺したものだ。母が住むことはなかったけどね」


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