蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 フロントガラスから眺める景色への興奮に慣れてくると、私はハンドルを握る蓮司さんの手をちらちらと窺った。

 大きくて力強くて、それでいてしなやかな指。
 指ひとつで私を動揺させられるなんて狡いなと思う。私にはこうして蓮司さんの視線を奪って動揺させるような武器がないのに。

 埼玉県から群馬県に入り、高崎や前橋といった主要都市を過ぎてしばらくすると、もう目的地最寄の渋川伊香保インターチェンジが出てくる。平日で道路が空いていたこともあり、私たちは予定より早く現地に着いた。


 伊香保温泉は四百年前に開湯された古い温泉で、開湯当時に作られ二度の改修を重ねて受け継がれてきた長い石段がシンボルとなっている。


「これこれ! 写真で見たの。一度登ってみたかったんです」


 路地の先に石段街が見えてくると、私のテンションは隠しようがなく上がった。三百段以上続く階段の両側には土産物屋や飲食店が建ち並び、足湯や源泉を分岐させる小満口の観覧所なども途中にある。


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