蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「終わったかな……」


 収まったと思っても何度も吐き気の波が来るので、なかなかトイレから出られない。このマンションのトイレがとても豪華で綺麗なことが、せめてもの救いだ。

 壁にもたれていた私は少し息が楽になってきたのを感じて薄目を開けた。
 トイレットペーパーをもうすぐ買わなくちゃ、などと現実的なことを考えたあと、ふっと笑った。

 最初の頃にやっていた嫌われ作戦で、ペーパーを切らすっていう下品な攻撃もやっちゃえばよかった。
 三カ月しか経っていないのにあの頃が懐かしくて、すごく昔のことに思える。嫌われたいと言いながら、致命的に嫌われずに済むことばかりやっていた気がする。なんだかんだ抵抗しながら、結局私は最初から蓮司さんのことが好きだったのだろう。

 また気分が悪くなってきたので、目を閉じて呟いた。


「トイレットペーパー、買わなくていいわよね……」


 嫌がらせのためではなく、あと数日でこの同棲は終わるのだから。
 このとき、私は自分から同棲を解消することを決めていた。
 こんなに濁った心では綺麗な花を生けられない。こんなにぐちゃぐちゃな私では、日本一素敵な花屋さんになれない。

 ねえ、蓮司さん。三カ月楽しかったよ。社長の息子だなんてステイタスがあなたについてしまったら余計に信じてもらえないだろうけど、私は打算抜きでただあなたを好きになったの。

だから、私から負けてあげる。



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