蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
***

 翌日は退職に向けた整理と引き継ぎ、イベント準備に終日忙しかった。でも朝からずっと胃の調子が悪く、会社にいる間なんとか持ちこたえていた体調は、帰宅するとそれを待っていたように一気に崩れた。

 子供の頃から風邪はめったにひかないけれど、胃だけは弱い。ストレスを溜めすぎたときなど、ごくたまに腹痛と嘔吐が数時間止まらないことがある。そういう発作があるときは数時間前からなんとなく「もうすぐ来る」とわかるので、誰にも気を遣わずひとりで落ち着けるトイレを確保する。今夜は幸いというのか、一緒の夕飯を私が断ったせいで蓮司さんの帰宅は遅いはずだ。

 目眩と悪寒と冷や汗、吐き気と腹痛に苦しみながらトイレにこもること二時間。


「死ぬー……」


 薬で無理に抑えないほうがいいと聞いたので、ただひたすら身体の気が済むまで耐えて待つ。
 こういうとき、嘔吐しながらいつも思う。胃が弱いぐらいでこんなに辛いなら、もっと重篤な病気はどれだけ苦しいのだろう? とても耐えられる気がしない。


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