蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 彼は餃子を口に入れ、三度ほど咀嚼したところでぴたりと停止した。彼の視線が一瞬だけ私に向けられ、また中空に戻る。


 わかった? 茄子ってわかった?


 けれど私の期待をよそに彼は咀嚼を再開し、結局そのまま綺麗にひと皿平らげてしまった。揚げ茄子のお味噌汁も無反応のまま完食だ。


 なんだ。茄子嫌いだなんて偽情報じゃないの。


 がっかりしているのに、なぜかほっとしたような不思議な気分になる。
 疲れて帰宅して嫌いな食べ物をずらりと並べられるなんて、敵とはいえ可哀想だ。やっぱり食べ物作戦はやめておこうと考えながら自分の餃子に箸をつけたときだった。


「ごちそうさま。おいしかったよ」


 いつもより妙に優しい彼の声に顔を上げた私は、その口の端に浮かんだ毒気のある笑みを見て縮み上がった。

 彼はやはり茄子が苦手なのだ。
 そしておそらく、私がわざとやったとわかっている。


「先にリビングに行ってる」


 口直しなのか、いつもより渋みの強いワインを持ってリビングに去っていく彼の背中を恐々見送る。

 でもこれは私の得意料理なのよ。罪悪感とともに心の中で言い訳する。好き嫌いなくなんでも食べなきゃね。


 その後、ご機嫌とりにおつまみを作ってリビングに行ってみたけれど、彼はいつもと変わりのない態度だった。だから私はとりあえず彼に一矢報いたことに少し満足して、この一件はこれで終わったものと流してしまった。

 あとで彼にお仕置きされることになるとは思いもせずに。 


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