蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 最初、料理下手アピールでひどい味付けの料理を出そうかと考えた。でも食べ物を粗末にすることには抵抗がある。ならば彼の苦手なものを食卓に並べればいい。

 今日の献立は茄子づくしだ。小鉢のひとつは普通だけど、もう一品は焼き茄子。お味噌汁には油通しした茄子。そしてメインは茄子の餃子。一見普通の餃子だけど中の具はひき肉と刻んだ茄子だ。どれも私の得意料理で、味は申し分ないと思う。しかし茄子であることに変わりはない。


 食卓について卓上の皿を見た彼は数秒の間のあと、いきなり焼き茄子を箸で掴んだ。

 おお。真っ先にそれを取るとは、なかなか男気があるではないか。でもお醤油をかけたほうがいいと忠告すべきだろうか?

 なに食わぬ顔で自分のご飯を食べ始めた私の全神経は正面に向けられている。


 今日の焼き茄子は特別新鮮で、丸々と太った立派な茄子をわざわざ買い求めた。丁寧に焼いてふっくらと仕上げ、おろしたてのショウガと鰹節をたっぷりかけてある。彼に嫌がられるのが目的なのに、なぜかいつもより丹精込めて作ってしまった。

 どうするのか固唾を飲んで窺っていると、彼はまずひと口大きくかじったあと、いったんそれをお皿に戻し、醤油をかけた。
 醤油もかけずに食べたひと口目はかなりの打撃だったはずだ。しかし彼は大胆にもわずか三口で特大の焼き茄子を食べてしまった。それで感想を求めた結果が冒頭の呆気ない反応だ。
 それから彼は水を飲み、次に小鉢に進んだあと、餃子に箸を伸ばした。

 次こそは。私の喉がごくりと鳴る。

 焼き茄子は見てそれとわかるので覚悟できるけれど、ただの餃子だと油断させてからの茄子だから、今度こそきっとダメージを受けてくれるはずだ。


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