きみのための星になりたい。

プシューと音を鳴らし、ドアが開いたあと、車両に乗り込んできた悠真くんと柊斗。

「おはよう。あかり、凪ちゃん。今日はしっかり楽しもうぜ」

いつもより確実にテンションが高そうな悠真くんは、持ち前の笑顔を弾けさせる。

「凪、あかりちゃん、おはよう」

そんな悠真くんとは正反対に、落ち着いた様子の柊斗は、優しげに笑っていた。相変わらず、見ている方が穏やかな気持ちになれるような、爽やかな笑顔だ。

……そういえば。私服姿のふたりを見るのは、これが初めてかもしれない。そう考えれば、途端に目の前にいるふたりが新鮮に思えてきた。

学校終わりはいつも制服を着ていて、互いに私服を着用しているところを見たことがないから、向こうもきっと同じことを思っているだろう。まあ、あかりと悠真くんは恐らく私服姿で会ったことはあるだろうけど。

「あと二十分もあれば目的地の駅へ到着だ」
「ネモフィラ畑って、駅から近いんだっけ?」
「ああ、歩いて五分くらいらしいぜ」
「まあまあ近いんだね。あんまり歩かなくていいのは嬉しいかも」

そんな会話を、他の利用客の邪魔にならないようにコソコソとするあかりと悠真くん。

駅からネモフィラ畑までは徒歩五分程度か。あかりの言う通り、思っていたよりも近い、と私も同じことを思った。

そのとき、羽織っていたシャツの右の裾を誰かにクイ、と引かれ、肩が僅かに跳ねる。

チラリと視線を右側にやると、柊斗がとても申し訳なさそうな顔をして立っていた。なぜ柊斗は、こんなにも眉を下げ、子犬のような顔をしているのだろう。その理由は、すぐに判明した。

「ごめん、凪。驚かすつもりはなかったんだ」

……ああ、そういうことか。柊斗は私を驚かしてしまったことを反省したわけか。

「……ううん、大丈夫。でも、ちょっとびっくりしたよ」
「本当にごめんね。いや、ただ凪に話しかけようかなあと思ったんだ。悠真とあかりちゃんはふたりで何か盛り上がってるみたいだし」

その言葉を受け、あかりと悠真くんに視線を移してみると、……確かにふたりは何かの話に盛り上がっているようだ。

そうか、柊斗は私に話しかけようとして袖を引いたんだ。

その事実を知り、私と話して柊斗は楽しいのだろうかと思う気持ちと、少しだけ嬉しいという気持ちが交錯する。

なんて言葉を柊斗にかけたら話が弾むのかなあと考えるものの、いい話が思い浮かばず無言になる私。それに、私が持ちかけた内容が面白くないと思われ、柊斗に呆れられるのは嫌だ。そう思うと余計に何も言えなくなり、車内の手すりを握りながら俯いてしまう。

「凪、今日ちゃんと起きられたんだね」

その時、そんな私の気持ちを察したかのように、柊斗が口を開いた。見上げた柊斗は少しだけ悪戯に微笑んでいて、張り詰めていた緊張やもやもやが、全てではないけれど、そのいくらかが一瞬でどこかへ飛んで行ったようだ。
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