きみのための星になりたい。

家を後にしたのは九時十分頃。ここから駅までは十五分程度あれば到着するだろう。

私とあかりは九時半過ぎ初の電車に乗車し、そこからふたつ先の駅で乗ってくる柊斗と悠真くんと合流、さらに三駅進み、目的のネモフィラ畑に行くという計画だ。

「凪、こっちこっち」

駅へ入り改札の前まで行くと、そこにはもうあかりが待っていた。私を見つけるなり大きな声で名前を呼び、楽しそうに手を降っている。

「あかり、おはよう」
「凪もおはよう。お、どうしたの?今日すごい可愛いじゃん」
「ちょっと、なあに?やめてよ、恥ずかしい」
「だって。いつもは化粧なんてしない凪が、今日はしっかりとお化粧してるから。きれいな二重の大きい目が余計に際立ってる。やっぱり凪は、可愛いんだよなあ」

あかりの元に駆け寄るなり、なぜか褒められて、妙に照れくさい気持ちになった私は、あかりのことをじいっと睨みつける。

そしたらあかりは目を細め、クスッと笑った。その拍子にあかりの束ねられたポニーテールがくるりと揺れる。顔の輪郭はとても綺麗だし、顔は小さいし、笑うと頰にえくぼが浮かぶし。あかりの方こそ可愛いじゃない、と心の中で思うけれど、それはあえて口にはしなかった。

だってきっと私が褒めると、あかりは〝そんなことない。凪の方が……〟ってもっと私のことを褒めてくれて、互いに収拾がつかなくなりそうだから。過去にこれと同じようなことを何度も経験しているから、だいたいは予想がついている。

「……ほら、あかり。行くよ?電車に乗り遅れちゃう」

話を上手くはぐらかすような台詞を押し出すと、あかりは一旦時計に目をやり、それから慌てたように目を丸くした。

「本当だ、あとニ分しかないよ。急ごう」
「うん、悠真くんたちも同じやつに乗るから、乗り遅れるわけにはいかないし」

お互いに顔を見合わせ、力強く頷き、私たちは改札をくぐる。

……さあ、後は四番ホームの階段を上るだけ。急がないと。

そう思い、私とあかりは一心不乱に乗車予定の電車を目指した。その甲斐もあり、発車の約三十秒前に車両に飛び込んだ私たち。

なんとか間に合ったようだ。

あかりは待ち合わせのために悠真くんとメッセージのやり取りをしていたみたいで、電車に乗ってすぐ、どの車両に自分たちが乗ったのかを連絡していた。

そして電車に揺られること十分。

悠真くんたちの最寄り駅に電車は停車し、開閉ドアの前には彼らの姿が見えた。ガラス越しに私たちに気が付いたのか、悠真くんが小さく片手を挙げる。
< 19 / 120 >

この作品をシェア

pagetop