きみのための星になりたい。



それからどのくらい一人で手先を動かしていただろう。机の上に積み重なった完成系の冊子はさっきより増していて、ザッとクラスの半分強の人数分はできたと思われる。

ということは、ここが折り返しくらいか。少し肩の凝りを感じた私は、一度大きく伸びをして、目を閉じ小さく息を吐き出した。私一人しかいない教室は静寂に包まれていて、溜め息が想像以上に大きく響く。

「……よし、もう一息だ」

スクールバッグの中に忍ばせていたミネラルウォーターで喉を潤し、再び紙を順に並べ始める。それから数分ほど経過したところで、教室の前の扉が軋んだ音を立てた。

「……あかり?」
「あれ?凪じゃん。どうしたの?まだ帰ってなかったの?」
「あかりこそ。まだ残ってたんだね」

姿を現したのは、あかりだった。もうとっくに帰ったものだと思っていたから驚いたけれど、それはどうやらあかりの方も同じみたい。

「現代文の先生にちょっと呼ばれてて。職員室で話してたんだ。凪は、何してるの?」
「私、今日日直だったでしょ?担任の先生から、これ明日までに整理するように頼まれてさ。ずっと黙々と頑張ってたんだ」

机の前まで足を運んだ彼女は、ホッチキスで留めた冊子をパラパラと見ると、「これ、ずっと一人でやってたの?」と呟いた。私はそれに小さく頷く。

「クラスの女の子が声をかけてくれたんだけどね。後から部活動があるみたいだったし、そこまで仲良いわけではないから頼むのも申し訳なくてさ」

そう言って苦笑いを浮かべたら、あかりもやんわりと頰を緩める。そして私の前の席の子の椅子を反対向きに置くと、そこに何事もなかったかのように腰掛けた。

「さあ、やるよ」
「……え、いいよ。これ、私の仕事だし」
「ううん、二人でやろう。私も手伝うから」

どうやらあかりは手伝ってくれるらしく、私の作った完成形を見ながらそれに近づくように作業に取り組み始めた。でも、いくらいつも一緒にいてくれるあかりだからといっても、申し訳ないと思う気持ちが湧き上がってくる。

それから何度か断ろうとしたのだけれどあかりは強情なのか聞く耳を持たず、一方的に作業を進めるばかり。

「じゃあ、お願いします……」

最終的に折れたのは、私の方だった。

あかりは私が頼まなくても、いつもこうして率先して助けてくれる。でも果たして、私はあかりの役に立てているのか。考えれば考えるほど、もともとなかった自信がさらに失われていくようだ。

二人で作業を開始してから約十分。作業の終わりもなんとか見え始め、ほんのり気が緩む。ホッと胸を撫で下ろしたら、急に手洗いに行きたくなってしまった。

< 37 / 120 >

この作品をシェア

pagetop