きみのための星になりたい。



……あかりには申し訳ないけれど、少しだけ抜けさせてもらおう。

「ごめんあかり、ちょっとトイレに行ってきてもいい?」
「うん、全然いいよ。むしろ、限界が来る前に行ってきなよ」

声をかけた私の言葉を快く受け入れてくれた彼女にお礼を言い、私は教室を後にする。冷房の効いた教室から一歩出ればそこは蒸し暑く、私は制服のシャツをパタパタ扇ぎながら歩く。

少ししたところでトイレの看板が視界に入り、そのままそこへ足を踏みいれようとした、その時だった。

「凪ちゃん、さ」
「うん。どうしたの?」

私の耳に、誰かの声が届く。そしてそれが私の名前だったこともあり、思わず直前で足を止めた。この高校ではトイレと手洗い場が同じ空間に設置されているのだが、彼女らは手を洗いながら話しているみたいだ。……それにしても、この声。私には、思い当たる節があった。

「あかりちゃんと、日直の作業してたよね。家庭科室からトイレに行く時、教室の前通るでしょ?その時、チラッと見えてさ」

じいっと耳を澄ませていると、なおそうだと確信する。トイレで話している彼女たちは、数十分前に私に声をかけてくれたクラスメイトの女の子だ。

そして二人が話しているのは、間違いない。私とあかりのこと。それを知り、余計にここから動けなくなる。彼女たちはそんな私に気付くこともなく、話を続ける。

「あかりちゃんになら、いつも一緒にいるから、頼みやすかったのかなあ。私たちが声をかけても、断られたもんね……」
「凪ちゃんも、もう少し私たちや周りの人を頼ってもいいと思うんだけどね。言ってくれたら、手伝うんだけどなあ。凪ちゃん、誰かを頼ることをあまりしないで一人で抱えちゃうタイプみたいだから、ちょっと難しいかもしれないけど」
「でも、あかりちゃん、いつも凪ちゃんのこと何かと手伝ってあげてるじゃん?優しいなあって思うけど、たまにあかりちゃんが無理してないのかなって心配にもなるんだよね。……まあ、それは余計なお世話かな。本当にどう思ってるかは、二人にしか分からないんだもんね」

そう言った彼女たちは、手を洗い終え、ハンドドライヤーに両手を差し込んだのだろう。ブオォン、と唸るような音が廊下に響き渡る。

……このままでは、二人と鉢合わせしてしまうかもしれない。ずっと話を盗み聞きしていたのがバレるのは気まずいと感じた私は、すぐさまそこを立ち去った。そして別階のトイレに向かう。

その道中も、用を済ませて教室に向かう時も。私の脳内では、さっきの彼女らの会話がぐるぐると渦巻いていた。


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