死者の涙〜最期のメッセージ〜
「霧島さん、ずっと「お兄ちゃん」って言ってましたけど、どうしたんですか?確か霧島さんは一人っ子ですよね?」

大河の言葉に藍は顔を横に向ける。過去のことを思い出し、泣いてしまいそうになっているからだ。

「……無理して話さなくてもいいです。でも、一人で抱え込まないでくださいね」

ずっと横を向いたままの藍に、大河は優しく声をかける。藍はお礼を言いたいが、唇が震えていてうまく言葉を話せない。

その時、医務室の扉が開いた。

「霧島さん、大丈夫ですか?」

研究所の所長、春川正人(はるかわまさと)だった。藍は慌てて「大丈夫です」と言い、ぼやけた視界を元に戻す。

「河野くん、実はさっき如月刑事から解剖の依頼が入りました。田中聖(たなかひじり)さんと現場へ行ってください。霧島さんは休んでいてください」

藍が体を起こす前に、正人はそう言い素早く医務室を出て行った。

「それじゃあ、少し行ってきます」

大河はそう言い、扉に向かって歩き出す。

「行ってらっしゃい。解剖はきちんとするわ」

藍がそう言うと、大河は頰を赤く染めたまま振り返り、子犬のように無邪気に笑った。
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