過ぎた時間は違っても
羽季だって灰色の髪と口髭が似合う歳になっているし、家族もいる。両親はあと何年生きられるか分からないくらい老いていた。まだ私の記憶があるなら少しだけでもと思うけど、存在自体を消してしまった世界に行った所で変人としか思われないと思う。

「お前の人生を滅茶苦茶にしてしまった事、お前がこの部屋に来た日からずっと悔いているんだ。人間は長くても百五十年しか生きられないのだから、それまで待てば良かったって」

「お気持ちだけで嬉しいです」

神様は私を愛しそうに見つめると私の頬を両手で包んだ。まるで、薄くて割れてしまうような硝子に触るくらい優しく添えていた。でも、その優しさからは私を愛しているのだと確かに伝わってくる温かみがある。だから私は生き返りたいと無理に言わないのかもしれない。
< 112 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop