レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

「不安は、あったよ」
「どうして僕に言ってくれなかったの?」
 僕はまた同じ質問を繰り返した。
「僕は晃にとって――」
 そんなものなの? 続く言葉を僕は胸に閉まった。

「言ってくれれば、力になれたと思う。僕だってこのプロジェクトに参加してるんだよ。僕が晃は大事な友達なんだって言えば、王もマルも考え直してくれたはずだよ。――そうだよ、今からだって!」
「レテラ」
 晃は咎めるような口調で僕を呼んだ。
「どうして……?」

 呟いて、僕は踏み出していた。晃の肩を掴んで目線を合わせる。晃の丸くなった瞳を直視した。

「晃、お前死にたいのか?」
 晃は目を閉じてかぶりを振った。
「じゃあ、どうして!?」

 声高に叫んだ僕の瞳を、晃は見据えた。その目は、強く、凛としていた。

「わたしが降りても、わたしの代わりに誰かが死んでしまうでしょう」
「……そんなの」

 僕は言葉を詰まらせて、乱暴に晃を抱きしめた。

「そんなの! 晃より大事なやつなんていやしないじゃないか!」
「レテラ……」

 晃の囁く声が、僕の耳元で鳴った。

「他のやつなんてどうなったっていい。晃が死ぬ事ないだろ」

 晃を抱きしめる腕に力が入る。晃を離したくない。晃を死なせてたまるものか。

「レテラ。ありがとう。でも、わたしが選ばれたからには、降りるわけにはいかないの」
「どうしてだよ!」

 きっぱりとした声音を聞きながら、僕は叫んだ。声が波打ち、僕は自分が泣いていたことに気づいた。だけど、涙を拭う気にはなれなかった。この腕を片方でも解いてしまえば、晃はいなくなってしまう気がして。
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