レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
呟いた瞬間、また城内に激しい雄叫びが木霊した。
びくっと肩を震わせて、立ち上がろうとする。けれど、腰がすっかり抜けてしまって、立ち上がれない。僕は四つんばいになって逃げ出した。
止まない大勢の悲鳴を聞きながら、適当な部屋へ入って、這いずったまま押入れの襖を開けた。押入れに入ると、襖を閉めて、しばらくじっと固まる。
数分間そうして動かずにいると、心臓の動悸も少し治まってきた。僕は、さっとメモ帳とペンを取り出した。
「冷静になれ、冷静になれ」
自分に言い聞かせながら、さっきあったことを思い出した。白銀の鎧はルクゥ国のものだったけど、他は違う。確か、緑色の鎧は驟雪国のものだし、黒はハーティムのものだ。
「何故、こうなったんだ。どうしてなんだ。何があった。考えろ、考えろ、レテラ」
ぶつぶつと独り言を言いながら、僕はメモを取っていく。そのとき、誰かが駆ける音が聞こえ始めた。何かを叫びながら、徐々に音は大きくなっていく。
一人、二人ではきかない。もっと大勢。二十人以上は確実にいる。それが確実に僕のほうへ向って近づいてくる。
「ひっ」
僕は息を呑んだ。
膝と胸をくっつけて、身を縮める。部屋のすぐ側で、誰かが叫んだ。
「やつらを見つけろ! 殺したら首を持って来い! だが良いか、なるべく殺さずに生け捕れ!」
「おお!」
びりびりと空気を震わせながら、雄叫びを上げ、大軍は駆けていく。僕は、ほっと息を吐いた。だが、次の瞬間、押入れが開かれた。
僕は一瞬、時間が止まったような気がした。薄紫色の鎧を着た兵士が、にやりと笑う。
(水柳の……)
一瞬過ぎって、
「見つけました!」
兵士が声高に叫んだ。