レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
「出せ!」
荒々しく叫んでみた。だが、効果は無い。
僕は、城の地下牢に投獄されていた。もう三時間以上になるだろう。牢屋番をしている水柳国の兵士は、喚けど騒げど僕を見向きもしない。
僕は座り込んでメモ帳を広げた。幸いなことに、牢屋番の隣で煌々と燃える松明のおかげで、メモ帳を読み返すだけの明かりはある。
「皆はどうしてるだろう」
僕はぽつりと呟いた。
メモ帳にすでに書き込んであった、誰かが叫んだ言葉を目視する。
『やつらを見つけろ!』とは、やはり僕らのことをさすのだろう。僕が殺されずに捕らえられたことを見れば、そう考えるのが普通だ。
薄紫色の鎧は水柳国のものだ。ということは、条国を除いた四カ国全てが敵に回ったということだ。それは〝条国の〟なのか、〝僕達の〟なのかは分からない。
もしも青説殿下と四カ国が共謀していたら、僕達の敵で――というよりは、紅説王の敵と言った方が正確か。共謀していなかったら、四カ国は条国を滅ぼそうとしているということになる。
「なんのために?」
僕は自問した。それに重なるように、誰かが僕を呼んだ。
「レテラ」
はっと顔を正面に上げると、見知った顔が牢を覗いている。
「ミシアン将軍……」
「久しぶりだね。レテラ・ロ・ルシュアール」
「お、お久しぶりです。将軍」
混乱しながら、僕は返答した。ミシアン将軍は、昔と変わらず優しげな笑みを浮かべている。僕が混乱から立ち直る前に、ミシアン将軍の影から、ムガイが姿を現した。
「ムガイ!」
突然の出来事に、つい声高になった。
「ムガイ、お前捕まらなかったのか」
僕は安堵して、頬が緩んだ。ムガイは牢屋番に手のひらを差し出すと、鍵を受け取った。
(なんでだ?)
不意に疑心が生まれる。何かが変だ。